林 隆之 教授

林 隆之 政策研究大学院大学 教授

林 隆之 教授

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻を修了し、博士(学術)を取得後、大学評価・学位授与機構評価研究部助手、同助教授、同教授を経て2018年より現職。研究活動および科学技術政策の評価システム・手法・指標を研究対象としており、文部科学省、内閣府、国立大学協会などの審議会や評価関係の委員会の委員を複数務める。

先生は、おもに大学を対象として、研究評価について研究しておられますが、このテーマで研究しようと思ったのはどうしてですか?

学部生のころは科学史を勉強していましたが、当時は地球環境問題が顕在化しつつあり、科学技術の発展をいかに社会的にもコントロールしていくのかという問題が認識されるようになっていました。そのため卒業論文でテクノロジーアセスメント(技術が社会に導入される前の事前評価)を取り扱ったのが、評価に関心をもったきっかけです。
その後、大学院では科学技術政策を専門とする研究室に移りました。その頃、欧州では政策評価の視点から研究評価の制度化が始まっており、科学技術政策研究においても研究評価が重要な研究課題となっていました。日本でも1997年に研究開発評価の大綱的指針という国のガイドラインができ、いかにして研究評価を行うべきかが課題となっていました。当時の指導教官である平澤泠先生はその先頭で議論をしていた方であり、自然と私も研究評価が主要なテーマとなっていきました。
平澤先生のご指導をいただきながら、私が研究評価に特に関心を持ったのは、研究評価が科学技術政策における根本的問題を扱っているからです。科学技術の研究開発には、高度に専門的な知識が必要であり、その専門以外の人が外部から口を出すのは難しいものです。その一方で、国民の側は何らかの期待をもって公的資金を研究活動に支出しています。その期待は、学術的な発展への期待もあれば、科学技術が進むことによる経済発展もあれば、環境問題などの社会課題の解決もあると思います。研究評価というのは、両者を結びつける場になります。評価を通じて、研究開発の価値は何であるか、政府はなぜそこに関与するかを検討しなければなりません。従って、研究評価の仕組みを検討することは、科学技術政策の根本を考えることになると思っています。
大学院を修了したあとには、私は大学評価・学位授与機構という公的機関の研究部門に勤めることになりました。そこでは、研究評価だけでなく教育評価も含めて、大学をどうやって評価するのかを検討してきました。大学評価・学位授与機構は、日本で新たに大学評価を始めることが政策で決まったことにより改組設置された組織であり、私はその開始時点から加わりましたので、単に研究をするだけでなく、実際に大学評価の仕組みを作り実施するという実務と直接的に連結した仕事となり、意欲をもって研究を行ってきました。

大学の研究評価についての研究は、どのような手法で行うのですか?

研究の評価といえば、学術雑誌の論文の査読(ピアレビュー)がすぐに思い浮かぶと思います。これは、研究活動の質を研究者コミュニティが管理するしくみですが、近年は、研究開発がイノベーションと密接に結びついて政策的に支援されていることから、評価の対象は拡大し、評価者と評価指標も多様化しています。私は、このような変化の実態と背景を明らかにするとともに、評価方法や評価指標の問題点と改善点を抽出し、今後の研究マネジメントにその知見を生かすにはどうすればよいかを研究してきました。
たとえば、評価の指標として、学術的な成果だけでなく、研究成果が経済・社会・環境面にどのような影響を及ぼしているかの評価が、国内外で求められるようになっています。それには、指標の設定や測定方法の開発が必要です。そして、そのためには、国内外の制度事例の調査を行うとともに、過去の評価結果や研究開発事例の分析を行うことが必要になります。

先生の最近の研究で明らかになったことは?

大学評価の機関にいたときには、学問分野ごとにどのような研究評価指標が使われているのかを明らかにしました。最近は論文データベースが容易に使えるようになっているため、実際にはそのようなデータでは研究成果を適切に把握できない分野にも誤って使われるようになっており、現場の研究者の方からも憂慮する声がしばしば出ていました。研究評価プロセスのデータを使うことで、各分野の評価者がどのような指標を重視して評価を行っているかを明らかにし、それを評価項目へと反映させることができました。また、研究評価にとどまりませんが、大学の「内部質保証システム」と呼ばれるような学内システムとしてどのようなものが求められるかについて、過去の評価結果、現在の大学の状況、海外状況などを複合的に分析して、ガイドラインを作成しました。これも現在実施されている評価で活用されています。

特に最近は、大学の評価と資金配分の関係について分析を行っています。日本では2004年に国立大学が法人化されて以降、国立大学への運営費交付金は毎年1%ずつ削減されてきましたが、プロジェクト研究などの競争的資金と合わせれば、国立大学に配分される公的資金は全体として増えてきています。それでも大学は財政的に疲弊している状況にあり、教職員の新規雇用凍結などの問題も起こっています。このような状況が生まれるのはやはり制度がおかしいのであり、何らかの解決策を考えないといけません。海外では、教育研究の実績を評価・測定し、実績が出ている活動に対してしっかりと必要コストを配分するような「パフォーマンスベースのファンディング(Performance-based funding)」にシフトしています。日本でも、競争的な要素を取り入れながらも、安定的にお金を配分できる仕組みをつくっていく必要があると思って研究を行っています。

配分に競争的な要素を取り入れる場合、評価はどのようにするべきでしょうか?

研究評価の基本はピアレビューであり、それによって多様な研究活動や成果を評価することができるようになると思います。ただし、ピアの主観的判断だけで資金を配分するような評価を行うことも難しく、インフォームド・ピアレビューと呼ばれるような、指標によってピアレビューを支援するような方法をとるなど、定量指標と定性指標のバランスをとることが望まれます。
先ほど述べましたように、分野の違いや、学術面を超えるインパクトの視点を入れることも必要です。たとえば、人文科学・社会科学の研究業績は、論文数や書籍数だけで評価してよいわけではなく、学術書の翻訳や歴史資料の編纂、美術館などの展示資料の監修など、一般的な定量指標では含まれない業績があり、それらを無視してしまうと、該当分野はどんどん衰退してしまいます。定量指標だけではなく、その分野のことを理解している人が定性指標を決めなくてはなりません。また、社会・経済的インパクトについても、たとえば政治学分野であれば「研究成果がこの政策に活きている」とか、医学分野であれば「研究成果が医療に応用されることで疾病率の低下にこれだけ効果があった」というように、学術研究の社会に対するインパクトがエビデンスを踏まえて評価されるようになりつつあります。
このような評価をまずは、各分野の研究者が考えることが必要だと思います。ただし、それは蛸壺的な評価をするのではなく、研究者コミュニティが評価項目や指標を設定するという場面を機に、自らの研究分野の学術的ならびに社会的な位置づけを再考することが必要になります。日本では、他の国と比べてこのような議論があまり進んでいないのが、悩ましいところです。今後、運営費交付金を最適に配分していくためにも、さまざまな学術コミュニティがそれぞれの価値を明確にしながら、社会とのコミュニケーションを進める営みが必要になると考えています。評価の研究はそれを支援する役割も持つべきだと考えています。

今後は、どのような方向に研究を進めていきたいと考えておられますか?

林 隆之 教授

一つはこれまでの延長上で、大学評価を通じて大学改革や大学の財政的持続性をいかに実現できるかの研究を進めていきたいと思います。これに加えて2018年に政策研究大学院大学に移ってからは、文部科学省や内閣府の方と日常的にお会いする機会が増えました。現在、研究開発プログラムの評価についても議論を行っています。これまで行われてきた研究開発支援の方策が、日本の研究開発システムやイノベーションの創出メカニズムにいったいどのような効果を及ぼしてきたかについて、研究を行いたいと思います。

連絡先

政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策プログラム(GIST)
GRIPS Innovation, Science and Technology Policy Program (GIST)

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1 (アクセス
メール:gist-ml@grips.ac.jp
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