鈴木 潤 教授

リサーチクエスチョンの立て方、挑み方でイノベーションへの道を拓く
「GiSTだから得られる、変化を目ざした"政策への問題意識"」

鈴木 潤 政策研究大学院大学 教授

鈴木 潤 教授

2002年東京大学 大学院工学系研究科 博士課程(先端学際工学)修了、1984年から1988年まで持田製薬株式会社試薬研究所で研究員を務め。1988年から2005年まで財団法人未来工学研究所 研究員・主任研究員・主席研究員、2005年から2007年まで芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科 教授を経て、2007年より現職。専門分野は、科学技術政策・イノベーション政策の実証分析、技術経営、産学連携。2003年から現在まで文部科学省科学技術政策研究所(2013年7月より文部科学省科学技術・学術政策研究所に名称変更)客員研究官を兼任。

計量経済学(エコノメトリックス)的なアプローチで、政策と特許データとの相互作用と因果関係を明らかする

―理学系の研究職から社会科学系の研究職へ転向されていますが、経緯などお聞かせください。

私は学部卒業後、日本の製薬会社の研究所に勤め、遺伝子診断薬などの開発に携わっていました。その後、製薬会社からの転職を考えた際に、漠然とですが、ウエットラボの世界から、シンクタンク、社会科学分野の研究職へのキャリアシフトを考えました。これには小学生か中学生ぐらいの頃、親に薦められて読んだ「成長の限界」の影響が根底にあったのかもしれません。当時、非常に衝撃を受けことを覚えています。この本は、システムダイナミクスというシミュレーション手法を用いて、資源と地球の有限性について分析し、取りまとめていました。
大学教員となるきっかけは、博士論文を指導していただいた恩師・東京大学先端科学技術研究センター(以下、東大先端研)の児玉文雄先生からのお声がけを受けて、芝浦工業大学に設立された日本初の技術経営(MOT)の研究科で、社会人学生向けにイノベーション経営を教えたことでした。その後、東大先端研での副指導の一人であった後藤晃先生から、角南篤先生らと共に立ち上げるGRIPSの科学技術イノベーション政策プログラムの教員職のお話をいただきました。

―現在取り組まれている研究について、お聞かせください。

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私の研究流儀のひとつに計量経済学(エコノメトリックス)的なアプローチがあり、特に特許データとほかの経済指標などをミクロで分析しています。経済学以外の分野で使われている計量分析の手法も取り入れたいと思い、心理学の共分散構造分析や因果関係を分析するツールなどを組み合わせたりしています。因果関係を分析したい時、社会科学では倫理的な制約などがありどうしてもピュアなサンプリングを伴うような実験というのができないので、それを補うためにマッチング分析をします。私の研究では、政策的な介入があった群とない群を、非常に近い属性を持つサンプルからマッチングして抽出します。一定時間経過後に、介入があった群に効果が出たかを見ることで、政策の効果を評価します。
学生に指導した例では、ファンディングプログラムの性格や規模などが、研究の多様性にどのような影響を与えているのかを分析したことがあります(「学生・修了生の声」嶋田 義皓さん )。結果として、生態学で研究されている多様性の指標や枠組みを用いて、国のレベルでの研究課題の分布が分析できること、また、研究者の関心ドリブンか、課題に対する提案ドリブンかによって、研究内容の多様性に差が見られることを明らかにしました。これは競争的研究資金の採択基準のあり方に新たな観点を与えるものだと思います。最近、医学の分野でも倫理的な制約で実験ができない場合に、似たようなアプローチが使われるようになっています。

GiST博士課程で育てたい人材、そして、博士論文へ挑む心構え

―GiSTの学生は、特性・属性が一般的な大学とは異なることが多いと思います。これからGiSTへの進学を検討したり、希望したりする学生がいたら、どのような言葉をかけますか?

社会科学分野の研究で一番難しこと、挫折するポイントは、リサーチクエスチョン、研究課題の立て方と、それにどういうアプローチで挑むかという点です。この点が、リサーチクエスチョンがある程度明らかな自然科学分野とは異なります。研究課題を固めるまでに1~2年はかかるので、いろいろな手法を勉強しながらデータを集めていくとなると、3年で論文完成させるのはハードルが高いですね。3年で資金的支援が途切れる文部科学省等の制度で就学している留学生にとっては、非常に厳しい条件です。最初から相当な研究計画を持っていないと、3年で学位取得を果たして、帰国するのはかなり難しいと見ています。

学生には、社会経験を持つ30代~40代前半ぐらいの行政官や研究者が多くいます。そこで最初の講義では「なぜGRIPSの学生が、イノベーションや民間企業の経営の話を学ぶ必要があるか」を話しています。政策介入をする際に、民間企業がどのように反応するのかを知らなければ、政策設計はできませんし、国の研究機関のマネジメント方法もわからないでしょう。イノベーションシステムは徐々に変わりつつあります。そこに政策で変化を起こすには、その対象を理解することが必要です。民間の事例に学ぶことの意義はそこにあるのです。

GiSTは職業訓練校ではありません。特に若手の行政官の方々には、GiST博士課程の3年間に対して、特化した狭い範囲の知識獲得を求めるのではなく、政府が日本のイノベーションシステムで何をすべきか、行政の立ち位置を理解し考える機会にして頂きたいという気持ちでいます。

業績・担当プロジェクト

http://www.grips.ac.jp/list/jp/facultyinfo/suzuki_jun/2011nend/
連絡先

政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策プログラム(GIST)
GRIPS Innovation, Science and Technology Policy Program (GIST)

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1 (アクセス
メール:gist-ml@grips.ac.jp
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