学生・修了生の声 VOL.1

嶋田 義皓さん

2018年6月 科学技術イノベーション政策プログラム博士課程修了(学位:Ph.D in Public Policy)

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JST 研究開発戦略センターフェロー。博士(工学)。2008年東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。2008年日本科学未来館科学コミュニケーター、2012年JST戦略研究推進部主査を経て、2017年より現職。

GRIPSでの研究

博士課程では科学研究の多様性に着目。ファンディングプログラムの性格や規模が、研究の多様性にどのような影響を与えているのか分析を行った。国のレベルでは研究課題の分布が生態学で研究されている多様性の指標や枠組みで分析できること、大学レベルでは競争的資金が機関の論文数や分野の多様性に貢献していることを明らかにした。研究グループのレベルではミッション設定型と好奇心駆動型のファンディングプログラムを比較。ミッション設定型プログラムの方が研究テーマの多様性には効果的であることを発見した。

博士課程への進学を考えたきっかけを教えてください

科学館やファンディング機関で仕事をしてきて、科学を理解して研究を進める人と科学政策の直接の担当者、科学政策を研究対象として分析している研究者、3者の分断を感じていました。漠然としたものなんですけどね。

私は物性物理の研究をしていたことがあるので、なんとなく自然科学の研究者の感覚は分かる。行政官と政策研究者のどちらかの立場をつまみ食いすれば、3者の分断がなぜなのか把握できるような気がしていました。そんなことを考えている中で、職場で国内留学のような制度を見つけたことが直接のきっかけです。

工学をずっとやってきて社会科学のバックグラウンドが無いので修士課程へ進もうかとも考えたのですが、相談したところ問題ないということだったので博士課程へ入りました。

科学技術イノベーション政策プログラムを選ばれた理由は何でしょうか?

科学と社会の関係に関心があったので、近いコースを持つ東大、東工大、一橋大などいくつかリストアップして比べて決めました。中でもGRIPSは、科学技術政策のコースが他の開発経済学、公共政策、外交などの文脈に埋め込まれている印象が決め手でした。

入学前の印象と実際のプログラムにギャップはありましたか?

事前に持っていた印象通りのプログラムでした。「公共政策の文脈で取り扱う」ですが、もう少し具体的には、あまり科学技術を前面に押出していないという点が特徴だと思います。また、科学技術イノベーションに対する見方がいわゆる日本での「科学技術立国」とは違うテイストを持っているアジアからの留学生が多いことも印象的でした。

指導教員とはどのようなコミュニケーションを取っていましたか?

担当は鈴木潤先生でした。よく論文のドラフトに対してコメントをくださいましたし、月に一度は進捗報告の機会があり、面倒見の良い体制でした。

鈴木先生が担当で幸運だったのは、アカデミックな研究として科学技術イノベーションを扱う際の定番の「お作法」を叩き込んでもらえたことです。私の場合は実務に役立つスキルの獲得や自分の経験をまとめることが目的ではなかったので、例えば論文を出したときにこの分野で必ず問われるポイントが知りたかった。まさに鈴木先生はこの希望を叶えてくれる担当教員でした。

また、取り組んだ研究が経済学的な分析ばかりに偏らなかったのも良かった点です。私が取り組んだテーマと先生が元々専門にされていたテーマにある程度距離があったことでバランスが取れた側面もあります。鈴木先生は特許や産業政策などが専門で、私はそのサイエンス版ともいえる学術論文やファンディングについて扱いました。副指導だった塚田先生には、計量経済学の定番分析手法や実際の分析用ソフトウェアの使い方や論文の相談にも気軽に乗ってもらえました。特に2、3人しか取っていない講義では学生のテーマに沿って柔軟に対応してもらいました。そういうのは大事ですよね。

授業についてはどうでしたか?

授業の中で、今までに読んだことのないジャンルの本を紹介されるのはすごくよかったですね。大量に宿題が出ることもあったので、毎晩、宿題に追われる時もありました。科学技術政策概要の授業では日本語の文献がなかったので準備に時間がかかりました。

クラスメイトは、他のコースからも何人か来ていて、中国の特許事務所で働いている人、エストニア人もいました。政府機関から来ている修士課程の方もいて、バラエティに富んでいました。

各々しっかり文献を読んできたうえでディスカッションをする講義が多く、とても良い経験になりました。大学ならではの醍醐味でもありますね。 他にも輪読のクラスではプレゼンが半期で2回ぐらい回ってきました。いろんな人がいろんなプレゼンをして、達成感がありましたし、楽しかったですね。

博士課程を終えて、お仕事への良い影響はありましたか?

一つは視点というか、科学一辺倒で見ない視野が広がりました。私がこれまで学んできた物性物理や科学コミュニケーションとは毛色の違う世界に入って研究に取り組んでみたことで、ある種の土地勘がつきました。

例えば論文や学術機関についてのデータ分析一つとっても、今どういうデータが利用可能で誰がどのような分析をしているのか分かるようになりました。

<p?あとは政策とその成果や予測にはそれほど明確な因果関係があるわけじゃなく、証明自体も難しいということが研究してみてよく分かりましたね。コントロール実験できる自然科学とは違う社会科学の限界を理解し、現状を優しく見られるようになったとでも言いましょうか(笑)。

お金を掛けたからこの成果が出る、この分だけのお金や人のボリュームをかけるとこれだけの論文数が出るという分析はできるのですが、そればかり見て現状を把握し政策を進めようとすると途端に歪(いびつ)になります。計量経済的な分析でも政策とその結果の因果関係を突き止めるのは困難で、対象によっては「何らかの関係性がある」というのが限界だということが身をもってわかりました。

連絡先

政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策プログラム(GIST)
GRIPS Innovation, Science and Technology Policy Program (GIST)

〒106-8677 東京都港区六本木7-22-1 (アクセス
メール:gist-ml@grips.ac.jp
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